最高の性能と電力当たり性能を求める世界トップレベルのスーパーコンピュータでは,この10年余り,GPUに代表される演算加速装置の導入が極めて活発に行われています。浮動小数点演算性能(FLOPS)とメモリバンド幅性能(Byte/sec)を求める高性能計算に加え,特に近年では低精度マトリックス演算に基づくAI性能(AI-FLOPS)に対する要求が大幅に向上しています。この需要に応えるべく,最新のGPUでは科学技術計算向けのベクトル演算FLOPSに加え,16bit〜4bitの低精度マトリックス演算性能を飛躍的に伸ばすようにプロセッサアーキテクチャとシリコンの回路面積バランスを設計しています。また,HBM技術はGPUアーキテクチャに基本的に適応しており,GPU性能をサポートするように性能向上を続けています。
このような背景の下,トップレベルのシステムではGPU化が急速に進められており,TOP500リストの最新版(2025年11月)ではトップ10システム中,「富岳」を除く全てのシステムが最新GPUを装備しています。一方,国内では「京」「富岳」の系譜で汎用CPUを基本アーキテクチャとしたフラッグシップシステムの開発を行ってきました。しかし,電力当たり演算性能の向上とAI性能の向上を目指し,次期フラッグシップシステムとして「ポスト富岳」計画ではGPUを全面的に採用したアーキテクチャが基本となり,開発母体である理化学研究所では「富岳NEXT」のコード名の下,GPUとCPUの組み合わせによる次世代超高性能システムの開発が始まりました。
高性能計算に支えられる計算科学(Computational Science)ではハードウェアの開発だけでなく,これを最大限利用するアプリケーションソフトウェアの開発が極めて重要です。しかしこれまでの国産計算科学アプリケーション開発は,「京」「富岳」の汎用CPUアーキテクチャをベースに進められており,文部科学省における支援プログラムでもGPUシステムを対象にした課題をメインに据えたものはありませんでした。一方,国立大学情報基盤センター(スーパーコンピュータセンター)群では複数の大学がGPUシステムへの移行を進めており,フラッグシップシステムに先行してGPU化が進められています。これに伴い,アプリケーション側でもいろいろなレベルでのGPUへの移行が行われ,成果も出始めています。
この度,国内における計算科学アプリケーションのGPU化を支援すべく,「次世代HPC・AI研究開発支援センター」(HAIRDESC: Advanced HPC-AI Research and Development Support Center)がRIST内に設立され,2025年10月からの4.5年間の計画でオールジャパン体制でのGPUアプリケーション開発を支えていくことになりました。HAIRDESCの活動は同センターだけでなく,文部科学省の「次世代HPC・AI開発支援拠点形成」事業を共に推進する筑波大学・東京大学・東京科学大学の3つの中核機関,さらにその他の6つの国立大学スーパーコンピュータセンター,理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS),さらにAMD社及びNVIDIA合同会社の2つのGPU提供ベンダーも含めたオールジャパン体制でアプリケーションのGPU化を全力で進めていきます。
これまで,いろいろなセンターでアプリケーションのGPU化を進めるためのチュートリアルやハッカソンが行われており,センター単位でのGPU教育資料も作成されています。しかし,これらは基本的にそれぞれのセンターのGPUシステムの利用を念頭に置いたもので,資料も散在しています。HAIRDESCでは,これらの資料を統一的に整理し,入門・中級・上級の各レベルのアプリケーションユーザが効率的にGPUアプリケーション開発手法を学び,今後導入が加速すると想定される,富岳NEXTを含む各種スーパーコンピュータのGPU化に対応できるよう支援を行います。
また,単なる高性能計算だけでなく,AI手法を効果的に取り入れたデータサイエンス,サロゲートモデル, AI支援によるコード生成等,様々な局面でのAIの利用による,いわゆるAI for Scienceの進展にもGPUの利用は不可欠です。さらに,前述した低精度マトリックス演算というGPUの特性を高性能計算にも活かすべく,混合精度演算や低精度演算による高精度演算の支援等,あらゆる面でGPUを最大限に活用するための研究の支援もHAIRDESCの重要な役目です。
さらに,計算科学アプリケーションのGPU化は,欧米を中心に進められるGPUベースの計算科学研究において,基本的な計算プラットフォームを共有することが容易になり,国産アプリケーションの海外での利用,そして海外のGPUアプリケーションの国内での活用を相互に促すことで,国際共同研究を円滑に進めるという効果も期待されます。HAIRDESCではGPUアプリケーションの「輸出」のための支援も積極的に行っていきます。
HAIRDESC及び次世代HPC・AI開発支援拠点形成事業の趣旨にご賛同頂き,我が国におけるGPUアプリケーション開発と計算科学・AI研究の発展と国際連携の発展にご協力頂ければ幸いです。
2026年1月
次世代HPC・AI研究開発支援センター
センター長 朴泰祐
